2025.12.01

かりんとうの歴史を深堀り!黒糖かりんとうと白かりんとうの違いとは

かりんとうはどこか懐かしさを感じさせる、昔ながらの和菓子のひとつです。ただ、お饅頭やお団子、おせんべいなど古くから日本で親しまれてきたお菓子とは風味も形もずいぶん異なって見えますよね。
さらに最近では、カラフルなものや多彩なフレーバーのものなど、かりんとうもバリエーションが豊富になりました。どこかかわいらしい響きの名前を持つこのお菓子の発祥や歴史、作り方、さらにかりんとう風のお菓子など今でも進化を続けるかりんとうの魅力に迫ります。

かりんとうはおやつやお茶請けにぴったり
手土産にも選ばれる理由

かりんとう

かりんとうは、小麦粉と砂糖を練って油で揚げたものに、砂糖で作った蜜をからめたカリカリした食感のお菓子です。日本では古くから親しまれてきた伝統的なお菓子ですが、よく見るのは黒糖蜜がかかった長さ4〜5cmの棒状のものでしょう。

砂糖の甘さとわずかな塩気、また黒糖独特の香ばしさが調和するかりんとうは、おやつにもお茶請けにもぴったり。カリカリ・ポリポリした歯触りも心地良く、ついつい手が伸びてしまいますよね。甘いお菓子は渋みが特徴の飲み物のお茶請けに適しているので、かりんとうは茶道の席にも提供されることがあります。とりわけ、さらりとした薄茶(抹茶)とのペアリングが好まれているようです。

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もちろん日本茶以外でも、コーヒーや牛乳などさまざまな飲み物ともマッチするので、近年では華やかな包装の変わり種やレトロモダンな老舗のかりんとうなどが、ちょっとした手土産に選ばれることもあります。

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ところで、「かりんとうの日」という記念日があるのをご存じですか。「11」を2本のかりんとうに見立て、さらに「10」と「砂糖(トウ)」との語呂合わせである11月10日を全国油菓工業協同組合が「かりんとうの日」と制定しました。この日には、子ども食堂へかりんとうを寄贈するなど、社会貢献活動を通してかりんとうを広める活動を行っているかりんとうメーカーもあるようです。※1

作り方はドーナツと似ている?
かりんとうがカリカリになるレシピの秘密は卵の有無

かりんとう

かりんとうは一言で説明すると小麦粉に水と砂糖、塩を入れて混ぜ、油で揚げ、蜜をからめたお菓子です。こう聞くとドーナツを連想する方も多いかもしれません。確かに作り方も材料も似ていますが、両者の大きな違いはドーナツには卵が入っていて、かりんとうには入っていないという点です。

卵には保水性があり、また加熱すると膨らむ性質があります。このため、生地に卵を使うドーナツはふんわり・しっとりとした食感になり、卵を入れずにしっかり生地を練ったかりんとうはカリカリに仕上がるのです。※2※3

かりんとうはご自宅で作ることも可能です。小麦粉とベーキングパウダー、グラニュー糖(砂糖)を水や牛乳で練り、薄く伸ばしてカットしたら低温でカリッと揚げます。これを黒糖と水を火にかけ、ひと煮立ちさせた蜜に揚げたかりんとうを入れて絡めたら出来上がり。薄力粉に強力粉を加えると堅めに仕上がりますよ。

レシピはシンプルですが、太いかりんとうをカリッと揚げるのは意外と難しいので、ご家庭でチャレンジするならやや細く成形してじっくり揚げるほうがよいでしょう。ホットケーキミックスを使えばもっと簡単に作ることもできますし、蜜の代わりとして、揚げたてのかりんとうに砂糖をまぶせばさらにお手軽です。※4

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かりんとうの歴史――黒糖かりんとうの誕生はいつ?
砂糖が貴重な時代の高級菓子

かりんとう

日本でかりんとうが生まれたいきさつについてはっきりしたことは分かっていませんが、比較的知られているのは、奈良時代、遣唐使によって中国から伝わった小麦粉を練って揚げた「唐菓子(からかし・とうがし)」が、かりんとうの起源という説です。かりんとうは聖徳太子の口にも入ったのかもしれませんね。

かなり昔から存在していたとはいえ、かりんとうは砂糖をたくさん使うお菓子。砂糖が貴重だった時代には上流階級の食べ物でした。一般の人々がかりんとうを食べられるようになったのは、江戸時代になり、幕府がサトウキビ栽培を奨励して砂糖が国産化されるようになった頃です。そして明治8年、浅草仲見世のある店が黒糖を使ったかりんとうを売り出し、それから徐々にかりんとうは全国に広まりました。当時黒糖が使われたのは、精製された白砂糖がまだまだ高価だったからです。

なお、揚げ物には、時間が経つとどうしても油が酸化して味が落ちてしまうという課題があります。しかし、黒糖に含まれる「コクトオリゴ」には酸化を抑制する働きがあるため、黒糖を使った黒かりんとうは今のように保存技術がない時代でもおいしさをキープできたと考えられます。※5

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かりんとうの名前の由来
漢字で書くと花梨糖、火輪糖、カリン糖?

かりんとう

ところでかりんとうという名前はどこから生まれたのでしょうか。日本語のような、外国語のような不思議な響きを持つ名前ですよね。

このお菓子がかりんとうと名付けられた理由としていくつかの説がありますが、一説には「食べたときにカリカリという音がするから」とも言われています。食感をそのまま名前にしたネーミングは、シンプルなだけになんだか納得感がありますよね。

ほかには、「黒船から名付けられた」という説もあります。かりんとうが普及した江戸時代、オランダやアメリカからやってくる蒸気で動く船は「火輪船(かりんせん)」と呼ばれていました。伝統的な和菓子に慣れていた人々にとって、油で揚げた甘いかりんとうは、まるで黒船のように目新しく映ったのかもしれません。九州では縄状のかりんとうのことを、今でも「オランダ」と呼んでいる地域があるそうです。

さらに、「花梨(カリン)の木や熟した花梨の実に似ているから」という説もあります。花梨の木といえば、たくさんのコブによる木目の「花梨瘤(かりんこぶ)」が特徴です。そういわれてみれば、かりんとうの表面にあるデコボコは、複雑な木目を持つ花梨の木に似ているようにも見えますね。※5

黒かりんとうに白かりんとう
違うのは見た目や味だけじゃない?

かりんとう

かりんとうは「黒かりんとう(黒糖かりんとう)」と「白かりんとう」に大別できます。材料や作り方はほぼ同じですが、揚げた後に黒糖で作られた蜜をかけるか、白砂糖で作られた蜜をかけるかという違いによって、見た目も風味も大きく変わります。

サトウキビの搾り汁を煮詰めて固めた黒糖を使う黒かりんとうには、カラメルのような濃厚さと素朴な風味、しっかりとしたコクが出ます。一方、精製された白砂糖を使う白かりんとうは、クセのない上品な甘みが特長です。※6※7

また同じ黒かりんとうでも地域によって見た目や食感に違いがあります。関東では生地をしっかり発酵させ、空気を含ませてふっくら揚げたソフトな食感のかりんとうが多いのに対し、関西では生地を強くこねてじっくり揚げたハードな食感のかりんとうが多いようです。

なぜ東西でテクスチャーが異なるのでしょうか。その理由として、関東では黒糖の風味を楽しむことを重視し、関西では食べ応えや腹持ち、保存のために固い生地に仕上げられたからと考えられています。東西両方のかりんとうを食べ比べ、食感や味の違いを楽しんでみてはいかがでしょう。※8

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黒糖と白砂糖の違いとは?ミネラル豊富な黒糖と血糖値の関係

カーニバルやイースターに活躍
かりんとう風のお菓子は海外にも!

かりんとう

海外にもかりんとうに似たお菓子がいくつもあります。

そのひとつがイタリアの「キアッケレ」です。キアッケレは小麦粉に砂糖や塩、卵などを入れ、揚げたあとに粉糖をまぶした伝統的な揚げ菓子で、毎年2月に行われるカーニバル(カルニヴァーレ:謝肉祭)に食べられます。謝肉祭とは、キリストの復活を記念するイースター(復活祭)の準備をする「四旬節」を迎える前に行われるキリスト教のお祭りです。※9

面白いことにこのお菓子は地域によって呼び名が変わり、イタリア南部では「キアッケレ」、北部では「ブジエ」、中部では「フラッペ」、トスカーナ地方では「チェンチ」と呼ばれます。日本の「回転焼き(今川焼・大判焼き・おやき)」を彷彿とさせますね。

またスペイン・アンダルシア地方には、クリスマスやイースターに欠かせないお菓子として「ペスティーニョ」があり、これは「スペインのかりんとう」と呼ばれるほど、見た目も作り方もかりんとうそっくりです。

スペインでもキリスト教徒が四旬節の時期に、イースターを迎えるために節食する習慣がありました。ペスティーニョはもともとアラブ料理ですが、高エネルギーで腹持ちがよいことからスペインでイースターと四旬節を迎える前に食べるものとして好まれたようです。そうした習慣は少なくなってきた今でも美味しいお菓子は残り、地域によってアレンジが加えられつつ愛され続けています。

かりんとう饅頭はかりんとうじゃない?
かりんとうスイーツあれこれ

かりんとう

長い歴史のなかで、かりんとうはさまざまな形に進化しています。最近では野菜が練り込まれたカラフルなかりんとうや、落花生(ピーナッツ)・ごま・味噌などで味付けしたかりんとうも目にするようになりました。

かりんとうの名を借りたお菓子も登場しています。例えば、蜜をかけた揚げ菓子に黒糖の蜜をかけて「かりんとう」と謳う「かりんとうドーナツ」や「かりんとうあられ」、揚げずに焼いた「焼きかりんとう」なども、かりんとうに似て非なるお菓子です。

そのなかでも、2000年代の初めに誕生し今でも人気のあるお菓子が「かりんとう饅頭」です。黒糖を練りこんだ生地でこしあんを包んで揚げたかりんとう饅頭は、揚げたてのカリっとした表面の食感と風味がかりんとうに似ていることから、この名がつけられたそう。

かりんとう自体のおいしさはもちろんですが、健康への意識の高まりから栄養価の高い黒糖が注目されていることも、かりんとうに根強い人気がある理由のひとつかもしれません。今後、さらに変わったかりんとうやかりんとう風お菓子の登場も期待されます。目にする機会があれば、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。※10

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【参考文献】
※1 菓子食品新聞株式会社
https://www.okashi-np.com/2020/11/09/11%E6%9C%8810%E6%97%A5%E3%81%AF-%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%86%E3%81%AE%E6%97%A5-%E5%85%A8%E5%9B%BD%E6%B2%B9%E8%8F%93%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E5%8D%94%E5%90%8C%E7%B5%84%E5%90%88/
※2 太陽化学株式会社
https://www.taiyokagaku.com/lab/egg_learning/01/
※3 あいち産業科学技術総合センター
https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1412-2.pdf
※4 レタスクラブ
https://www.lettuceclub.net/recipe/dish/27379/
※5 独立行政法人 農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000051.html
※6 沖縄県黒砂糖協同組合
https://www.okinawa-kurozatou.or.jp/story/p2
※7 株式会社シルバーライフ
https://magokoro-care-shoku.com/column/rich-sweetness-brown-sugar/?srsltid=AfmBOopeLZgXJ_066ZqK74Ph6Q2uw-X1rSZEcS5bYZIVoCuUuijLKk_-
※8 日本経済新聞社
https://www.nikkei.com/article/DGXNASIH03008_T00C14A4AA1P00/p
※9 モンテ物産株式会社
https://www.montebussan.co.jp/italy/2019/006425.html
※10 内閣府
https://www8.cao.go.jp/okinawa/8/2023/okinawahukki50/content/industry02.html

(2024年9月2日新規掲載、2025年12月1日更新)

  • 澤 晶子

  • ライタープロフィール
    澤 晶子(サワ アキコ)
    WEB編集者・ライター
    長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。