羽二重餅(はぶたえもち)は福井県の銘菓として知られています。この薄くて柔らかい、独特のしなやかさのある和菓子にはどのような歴史があるのでしょうか。また、同じ「もち米」から作られるお餅や求肥との違いはどこにあるのでしょうか。
今回は、羽二重餅の歴史と名前の由来、やさしい食感を生み出す製法について探りました。加えて、最近登場したさまざまな「変わり種」「進化系」の羽二重餅もご紹介します。シンプルながらも奥が深い、羽二重餅の魅力に触れてください。
福井県の銘菓「羽二重餅」とは―名前の由来と歴史

福井県の銘菓である羽二重餅は、長方形に薄くのばしたひと口大の餅菓子で、名産品の「羽二重織(はぶたえおり)」をイメージして作られています。なめらかな口当たりとほのかな甘さは、羽二重織の優美さを感じさせます。
通常、絹織物では同じ太さの生糸をたてよこ1本ずつ織り込みますが、羽二重織は1本のよこ糸にたて糸を2本通します。これにより、羽のように柔らかい風合いながらコシのある生地ができあがります。さらに、生地の不純物を取り除いて精練し、漂白する作業によって独特の光沢を放つ羽二重織が完成するのです。羽二重織はスカーフや帯などにも使用されますが、特に着物の裏地として最高級の織物とされています。※1
羽二重織では糸に湿り気を与えることが重要で、生産には適度な湿度が保たれた環境が適しています。北陸地方は湿度が安定しており、なかでも福井県は明治20年ごろには世界一の羽二重織の生産地となりました。
羽二重餅は、福井県内の和菓子メーカーが「羽二重織という名産品をお菓子として表現できないか」と考えて作り上げました。上品な質感と味わいは、羽二重織を見事に再現しています。現在は、福井県内の多くの和菓子店が独自の配合で羽二重餅を作っており、食感や甘さの違いを楽しめます。
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羽二重餅の柔らかさの秘密はもち粉?原料と製法

今や福井県の銘菓として全国的に知られる羽二重餅は、何から作られているのでしょうか。羽二重餅の原料はとてもシンプルで、もち粉と砂糖、水飴だけです。なお、お餅は「もち米」を蒸してついたものを指しますが、羽二重餅には「もち米」を挽いた「もち粉」を使います。
羽二重餅づくりは、もち粉と水を混ぜて高温で一気に蒸し上げるところから始まります。生地がダマにならないよう丁寧にこねて蒸す工程は、羽二重餅づくりでいちばん大切な作業ともいわれます。
蒸し上がったら砂糖や水飴を混ぜ、じっくりと弱火で練っていきます。こうしてできあがった生地を薄く伸ばし、長方形に切り分ければ羽二重餅の完成です。※2
工程自体はシンプルですが、上質な材料を使い、時間をかけて練り上げることで独特のしなやかさ、なめらかなコシが生まれます。また材料の配合が仕上がりを大きく左右し、それぞれの製造元独自の味や食感につながります。
羽二重餅は添加物や保存料が入っていないものが多く、購入後はできるだけ早めに食べるようおすすめします。外気に触れないよう密封されていれば、消費期限や賞味期限の日付まで何日か日持ちする商品もあります。冷凍保存したい場合は、可能かどうか購入時に確認しておくと安心です。
羽二重餅と求肥の原料はどちらももち粉 その違いは?

一般的なお餅と羽二重餅には、もち米を蒸すかもち粉を蒸すかという違いがありますが、「求肥(ぎゅうひ)」の原料は羽二重餅と同じくもち粉と砂糖、水飴で、できあがった生地の見た目もほとんど変わりません。※3
求肥は薄くのばしても柔らかく伸びがよいので、さまざまな和菓子に使われています。いちご大福のように餡や果物などを包んだり、練り切りのつなぎとして混ぜ込んだり、カステラ生地の餡にするなど、主にお菓子の「素材」として活用されます。一方、羽二重餅は単体として味わうことの多い和菓子です。
求肥をきめ細かく磨き上げ、洗練させて美しい和菓子として完成させたのが羽二重餅だといえるかもしれません。実際、羽二重餅を製造する和菓子メーカーの多くが、羽二重餅にはもち粉のなかでも特に粒子が細かく上質な「羽二重粉」を使用するなど、原料からこだわって作られているのです。
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和菓子から洋菓子へ 進化系羽二重餅スイーツ

長年、福井県の銘菓として親しまれて、お正月を祝う伝統的な和菓子の花びら餅など幅広く使われる羽二重餅ですが、近年はさまざまな「進化系」羽二重餅も登場しています。
きなこをまぶしたり餡をくるんだりといった和菓子の定番アレンジに始まり、シュー生地やクッキーでサンドした羽二重餅、ジャムやナッツ類を練りこんだ羽二重餅、チョコレートやバタークリームと合わせた羽二重餅なども販売されています。
また、卵の代わりに羽二重餅を使用したプリン仕立てのお菓子や、トースト専用の羽二重餅などの変わり種も話題となっています。トースト専用の羽二重餅は、パンにのせて焼くと溶けて、とろりとした触感を楽しめるそうです。
羽二重餅は元々が柔らかく上品な味わいで、どんな食材とも合わせやすく、バリエーションの幅はまだまだ広がりそうです。ご家庭でも、購入した羽二重餅を簡単にアレンジしてみてはいかがでしょうか。アイスをトッピングしたり、黒蜜やきなこをかけるだけでも羽二重餅の新たな魅力を発見できるかもしれません。
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【参考文献】
※1 一般社団法人 福井県繊維協会
http://www.fukui-seni.or.jp/70topics/71silk.html
※2 福井市観光協会
https://fuku-iro.jp/feature/detail_200.html
※3 雪印メグミルク 株式会社
https://www.meg-snow.com/fun/academy/trivia/trivia_025.html
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ライタープロフィール
澤 晶子(サワ アキコ)
WEB編集者・ライター
長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。
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