食事をとることを「ごはんを食べる」、パン食の朝食でも「朝ごはん」といいますよね。ごはんは米飯(米)のみならず、食事そのものをあらわす言葉としても用いられるなど、単に食品や農産物の名前以上の意味を持っています。
お米が大切にされているのは、単に主食だから、というだけではないようです。神事やお祝いには赤飯やお餅は欠かせませんし、お米にまつわる縁起の良い言葉も多いもの。
お米はなぜこれほど大切にされてきたのでしょうか。日本の歴史の中でお米から作られたお餅や米菓子が持つ役割、またもち米から作られたおかきが、お年賀などの贈り物にも用いられている理由についても解説します。
神事やお祝いに欠かせない米と餅―日本とお米の深い関係

日々、私たちが当たり前のように口にしているお米や、お米から作られた食品は、日本の歴史の中でとても大切にされ、ほかの食品や農産物とは異なる扱いをされてきました。
お正月には鏡餅が飾られますし、新築祝いや上棟式、お祭りなどで餅まき(餅投げ)を行う習慣のある地域もあります。年末になると杵と臼で餅をつく風景をニュースなどで目にしますね。餅つき機やホームベーカリーの機能を使ってお正月につきたてのお餅を楽しむご家庭もあるでしょう。神棚やお仏壇にはご飯やお餅、米から作られたお神酒などが供えられ、お祝い事にはもち米を蒸して作ったお赤飯が食卓を彩ります。
☆餅投げに似た豆をまく伝統行事「節分」については以下でご紹介しています。
・節分はなぜ「煎り大豆」を豆まきする?大豆の栄養と健康効果を知ろう
また縁起の良い日を指す「一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)」という言葉があります。「一粒万倍」とは「一粒の稲の種がたくさん(万倍)実る」という意味で、手元にあるわずかなものや少しの行動が飛躍的に増えて、やがて大きな成果となって返ってくる、ということからこの日が吉日とされています。
さらに、「米」という漢字を分解すると「八十八」という形に見えます。「八」は末広がりで縁起がいいとされていることから、「米」という文字やお米にまつわる言葉も縁起の良いものだと考えられているのです。
日本国内ではお米以外にも多くの農作物が収穫されていますが、お米ほど特別扱いされている食品はあまりないでしょう。
子どもの頃、「お米には神様が宿るので粗末にしてはいけない」と教えられて育った方も多いかもしれません。なぜお米はこれほど大切にされ、時に神聖なものと考えられてきたのでしょうか。
☆月見団子やススキを飾り月を愛でる「十五夜」についてご紹介しています。
・「中秋の名月」十五夜はいつ?お月見の楽しみ方と月見団子のレシピ
お米や稲穂は神様からの贈り物?
神聖なお米が歴史ある神事に使われる理由

水田稲作は約3000年前に日本に伝わったとされ、欠かせないものとして今日まで改良を重ねながら受け継がれてきました。
約1300年前の西暦720年(養老4年)に完成した「日本書紀」には「天孫降臨(てんそんこうりん)」神話があります。そのなかに、天照大神(あまてらすおおみかみ)の孫であり、神武天皇の曾祖父とされる邇邇芸命(ににぎのみこと)が、天照大神から「これを育てて国を繁栄させなさい」と稲穂を授けられたという記述があります。※1
昔の人々は、お米が神様からの授かりものであり、稲作は国を治める基本であると考えていたのです。※2
それから長い歴史の中で、日本の伝統ともいえる宮中祭祀を大切に受け継いできたのが皇室です。現在では、皇居にある水田でうるち米ともち米が栽培されています。春には天皇陛下によって種まきや田植えが行われ、秋には鎌を手に刈り取りが行われます。収穫されたお米の一部は伊勢神宮へ奉納され、古くから行われてきた重要な皇室行事のひとつ、新嘗祭(にいなめさい)に使用されます。
また稲穂はたくさんの実をつけることから、子孫繁栄・五穀豊穣の象徴とも考えられてきました。
これらのことからお米は縁起が良いものであり、神聖なものと考えられるようになったのでしょう。歴史を通してみても、お米は単なる農作物以上の存在であったことがわかります。
☆うるち米ともち米についてはこちらで詳しくご紹介しています。
・炭水化物とは?うるち米やもち米に含まれる栄養素が体内エネルギーをつくる
丸餅、お雑煮で縁起を担ぐ
もち米から作られたお餅で長寿と円満を願う?

お米が大切なもの、神聖なものであるということから、お米を使って作られた加工品も神聖なものとして扱われるようになります。お米を使った加工品のうち、特に大事にされたのがお餅で、神事やお祝い事には欠かせない食品でした。
そのひとつが、お正月に飾る鏡餅です。これは単なるお正月飾りではなく、年神(としがみ)様をお迎えするために供えられる縁起を担いだお供え物です。大きくて丸い形は古代の神事で依り代として使われた銅鏡に由来しており、2段に重ねるのは、福を重ねるため。
ちなみに、上に乗せる橙(だいだい)には「代々家が栄えるように」という願いが込められています。※3
なお、お正月飾りは「正月事始め」と呼ばれる12月13日以降に飾り始め、年神様がいる期間「松の内」の最終日に下げ、鏡餅は鏡開きを行います。松の内は地域によって若干の差がありますが、関東以北では1月7日まで、西日本では1月15日までとされています。※4※5
また、松の内が1月7日までの場合は1月11日に、1月15日までの場合は1月20日に鏡開きをするのが一般的です。※6
鏡開きの際は、神様に刃を向けないために包丁を使わず木槌などで鏡餅を割り、お雑煮にします。このお雑煮にも年神様の力が宿っていると考えられており、そのお雑煮を食べることで無病息災を願います。なおこのイベントは年神様をお送りする行為なので、「割る」「切る」といった言葉を使わず、「鏡餅を下ろす(下げる)」「鏡開き」と呼ばれます。
さらにお餅は丸くてよく伸びることから「長寿」「円満」を象徴するとも考えられています。※7
☆こちらの記事でもさまざまな種類の和菓子を名前の由来とともにご紹介しています。
・求肥(ぎゅうひ)って何?和菓子作りに大活躍!おもち、白玉、すあまとの違いって?
・伝統菓子「羽二重餅」とは?求肥とどう違う?名前の由来は高級絹織物「羽二重」
・端午の節句の食べ物と飾りの由来。柏餅やちまきに込められた子どもたちへの思い
・四季折々の和菓子の種類!世界に知ってもらいたい日本伝統の食文化
もち米由来のおかき お年賀には縁起のいいお菓子がおすすめ

縁起の良いお米やお餅からはいろいろなお菓子も生まれました。そのひとつが、おかきです。おかきは鏡餅を砕いた「欠き餅」から作られることからそのまま「かき餅」や「おかき」と呼ばれるようになりました。そのため、鏡餅やお餅同様、おかきも縁起が良いものとされ、お祝いやお年賀に用いられるシーンも多くみられます。
特にお年賀は、年の初めに「今年もよろしくお願いします」と新年のご挨拶のために訪問し、手渡す贈り物です。年始は食べ物が家に多く揃っていたりして、早く食べ切りたいものが増えますが、そんな中で日持ちのするおかきは重宝します。また、来客が重なるケースもあるため、伝統的なお菓子で好みが左右されにくいおかきは、年齢を問わず贈りやすい品のひとつです。
なお、お年賀には基本的に熨斗(のし)を添えます。紅白・蝶結びの水引を選び、松の内の期間にお渡しするのが一般的です。
☆お年賀にもおすすめの手土産を紹介しています。「おもたせ」の意味やマナーなど、詳しくはこちらをご覧ください。
・「おもたせ」とは?悩みがちな手土産の定番は?
おかきは贈り物としてだけでなく、年末年始、家族団らんのお茶菓子としてもおすすめです。
たくさんのごちそうを楽しむ年末年始、家族でお茶を囲むひとときに、昔懐かしい味のおかきも揃えてみてはいかがでしょうか。
☆家族で過ごすひとときにもおすすめのお菓子についての豆知識を紹介しています。
・せんべいとおかき、あられの違い。うるち米って知ってますか?
・「咀嚼」はカラダにいい?お煎餅の咀嚼音「パリパリ」は世界共通か?
【参考文献】
※1 御所市観光協会
https://www.city.gose.nara.jp/kankou/0000001435.html
※2 神社本庁
https://www.jinjahoncho.or.jp/shinto/shinwa/story7/
※3 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/wagohan/articles/2301/spe13_01.html
※4 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJE2748I0X21C22A2000000/
※5 株式会社小学館 @DIME
https://dime.jp/genre/828459/
※6 株式会社阪急阪神百貨店
https://web.hh-online.jp/hankyu-food/blog/lifestyle/detail/002487.html
※7 サンテレビ
https://www.youtube.com/watch?v=F-AxVIhj-Wk&t=38s
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ライタープロフィール
澤 晶子(サワ アキコ)
WEB編集者・ライター
長年、学習塾・家庭教師勤務。フレンチ・イタリアンレストランでの勤務経験も豊富。趣味は食べ歩きと料理。季節のグルメのお取り寄せにも目がなく、特に地方限定銘菓が大好きです。


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