夜になっても気温が下がらず、寝苦しく感じる夜が続いていませんか。冷房や寝具を調節しても寝つきが悪い、眠りが浅いと感じるなら、食事に目を向けてみるとよいかもしれません。さまざまな栄養素の中でも、特に糖質とトリプトファンは快適な睡眠に関係していると考えられています。そこで今回は、睡眠の質を上げるために意識したい栄養素や食事の摂り方について解説します。毎日の食事を見直して心地よい眠りを手に入れましょう。
炭水化物を抜くと眠れない?睡眠と糖質不足の関係とは
気温が高い夜は、睡眠の質が低下しやすくなります。そこで快適な眠りのために心掛けたいのが、夕食での炭水化物の摂取です。
ダイエットを目的に、炭水化物を抜いたり量を減らしたりしている人もいるかもしれません。しかし、炭水化物に含まれる糖質は私たちの体にとって重要なエネルギー源です。食事から摂取された糖質は、血液に取り込まれて血糖となり、全身に運ばれてエネルギーとして利用されます。
睡眠中も、脳や体は生命維持のためにエネルギーを消費しています。夕食での炭水化物の摂取量が少ないと、エネルギー源となる糖質が不足し、夜間に低血糖に陥るかもしれません。低血糖とは血糖値が正常範囲を下回っている状態で、低血糖になると体内で血糖値を正常に戻そうとする反応が起こります。
血糖値の調整には体のさまざまな機能が関わっていますが、そのひとつが自律神経です。自律神経は交感神経と副交感神経からなり、両者が相互に作用して体の調子を整えています。体が活動的なときには交感神経が優位になり、リラックスモードのときには副交感神経が優位になり、バランスを保っているのです。
通常であれば夜は副交感神経が優位になる時間帯ですが、低血糖になると血糖値を上げようと交感神経が活性化されます。その結果、寝つきが悪くなったり夜中に目が覚めたりと、睡眠の質が低下することがあります。※1、2したがって、快適な睡眠のためには炭水化物を適度に摂取し、糖質を体に取り込んでおくことが大切だといえるでしょう。
☆夏の夜にも気をつけたい水分補給についてはこちらもあわせてご覧ください。
・熱中症や夏バテ予防のための水分補給 ポイントは水分と塩分の摂取!
トリプトファンは心地よい眠りに欠かせないアミノ酸

睡眠をサポートする栄養素として注目されているトリプトファンは、たんぱく質を構成するアミノ酸の一種です。食事によって体に取り込まれたトリプトファンは神経伝達物質セロトニンに変化し、さらに「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンに合成されます。※3
人間が夜になると眠くなるのは、深部体温と呼ばれる体の内部の温度が下がるためです。深部体温は1日の中で変動しており、午後6〜7時頃にピークを迎えると徐々に低下し、午前3〜4時頃に最も低くなると考えられています。
このように夜に向かって深部体温が下がるのは、メラトニンのはたらきによるものです。メラトニンが分泌されて深部体温が低下すると、体が眠りの準備が整ったと認識して自然な入眠がもたらされます。
ところが、トリプトファンの摂取量が不足するとメラトニンの分泌量が減少し、寝つきが悪くなる可能性があります。※1スムーズに眠りにつけない人は、トリプトファンの摂取を意識するとよいかもしれません。
☆トリプトファンについてはこちらでもご紹介しています。
・必須アミノ酸「トリプトファン」とは?お米などに含まれる幸せホルモンの源
体内時計をリセット
朝食と規則正しい生活で睡眠のリズムを整える

質の良い睡眠を得るには日中の準備が大切で、特に朝の過ごし方が「体内時計」に影響すると考えられています。
人の体温やホルモンの分泌の変化には周期があり、そのリズムをつかさどっているのが「体内時計」です。体内時計の周期は24時間よりもわずかに長く、これを1日24時間に合わせるには体内時計を毎日リセットしなければなりません。※4
体内時計は自律神経や深部体温の調整などに関わっており、眠りにも影響を与えます。そのため、体内時計のズレを放置すると睡眠リズムの乱れにつながり、寝つきの悪さや睡眠の質低下を引き起こす可能性があるのです。※5
体内時計のリセットを手助けし、生活リズムを整えるために役立つのが朝食です。朝食を摂ると、体が活動を開始する時間だと認識して体内時計がリセットされます。※6また、起床時に朝日を浴びたり、就寝時刻と起床時刻をなるべく一定に保つこともおすすめです。※7
夜更かしして朝起きるのが遅くなり、時間がなくなって朝食を摂らずに家を出るといった生活を送っていませんか?朝の行動が夜の睡眠を左右することを意識して、毎日きちんと朝食を摂るとともに朝日を浴び、規則正しい生活を心掛けて質の良い睡眠を目指しましょう。
トリプトファンと糖質を兼ね備えたお米
食事の工夫で快適な睡眠を

睡眠の質を高めるためには、炭水化物やトリプトファンを摂るタイミングも意識したいポイントです。
トリプトファンは、朝食での摂取を心掛けるとよいでしょう。その理由は、トリプトファンが睡眠ホルモンであるメラトニンに変わるのには時間がかかるからです。トリプトファンが変化してできるセロトニンは、日中に太陽光を浴びることで分泌が促進されます。そのセロトニンをもとにメラトニンが作られ、入眠が促されるため、朝食でトリプトファンを摂っておくことが大切なのです。※8
一方夜間は、低血糖による睡眠の質低下を防ぐため、夕食にも米飯を取り入れ、炭水化物から糖質を摂取しましょう。トリプトファンは乳製品、大豆製品、卵、バナナのほか、主食であるお米にも含まれています。お米はトリプトファンだけでなく炭水化物も豊富で、体や脳のエネルギー源になります。
ときには仕事の都合などで食事や睡眠のリズムが乱れてしまったり、食欲が低下して夕食を十分に摂れなかったりするかもしれません。そのようなときに活用したいのがおせんべいです。おせんべいはお米から作られているため、手軽に炭水化物を補給できます。
寝苦しい熱帯夜が続くときは、睡眠環境を整えるとともに食事を見直すなど、心地よい眠りにつながる生活習慣を意識してみましょう。
☆トリプトファンなどの必須アミノ酸をバランスよく含むお米の魅力についてはこちらもご覧ください。
・必須アミノ酸とアミノ酸スコアって?お米が体にいいといわれる理由とは
【参考文献】
※1 前野博之(2020年)「成功する人ほどよく寝ている 最強の睡眠に変える食習慣」講談社+α新書
※2 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/column-7.html
※3 山梨県厚生連健康管理センター
https://www.y-koseiren.jp/column/season/3224
※4 沢井製薬 株式会社
https://kenko.sawai.co.jp/theme/202003.html
※5 アリナミン製薬 株式会社
https://alinamin-kenko.jp/circadianclock/mechanism/3_2.html
※6 農研機構
https://www.naro.go.jp/laboratory/nfri/introduction/chart/0203/chrononutrition.html
※7 株式会社 再春館製薬所
https://www.saishunkan.co.jp/domo/column/lifestyle/body_clock/
※8 白濱龍太郎(2023年)「ぐっすり眠る習慣」アスコム
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ライタープロフィール
いしもとめぐみ
管理栄養士。一般企業勤務を経て、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験。現在は、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。日本ワインとおいしいものが大好き。
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