2025.09.01

咀嚼音のASMRも人気?徳川家康も食事で勧めた「咀嚼」のもつ力の奥深さ

江戸幕府を開いた将軍・徳川家康は、健康のため「よく噛むこと」を大切にしていたといわれていますが、現代では「噛む」行為が体に良い影響を与えることが研究でも明らかになってきました。さらに近年は咀嚼の思わぬ側面、咀嚼音を楽しむ「ASMR(エー・エス・エム・アール)」も注目されています。徳川家康が重視した「噛むこと」のメリットや、ASMRとしての咀嚼音の魅力、ASMRで人気の高いお菓子などについてご紹介します。

長寿の徳川家康が重視した食の習慣 秘訣は咀嚼にあり?

徳川家康は食事の内容や「よく噛むこと」に強いこだわりを持ち、40歳前後だった当時の平均寿命の2倍近い75歳(数え年)まで生きたとされています。その前年には大坂夏の陣に出陣するなど晩年まで元気で、「食事は一口で48回噛んでいた」とも伝わる咀嚼回数の多さが健康長寿の秘訣だったともいわれています。

徳川家康も大切にしていたという咀嚼を、私たちは毎日の食事で当たり前に繰り返しています。この噛むという行為が全身にさまざまな良い影響を与える可能性があることが、研究によって明らかになってきました。

咀嚼の最も大きな目的は、食べ物を細かく砕いて消化しやすくすることです。加えて成長期の子どもには、顎の骨や筋肉の発育をサポートする役割も期待できます。※1

咀嚼によって唾液の分泌が促されると、食べ物を飲み込みやすくなります。そのほか、唾液に含まれる酵素が消化を助ける、口の中のpHを調整して虫歯を防ぐといったはたらきも重要です。※2

食事中に「お腹がいっぱい」と感じるのには、咀嚼によって脳の満腹中枢が刺激されることが関わっているといわれています。また咀嚼が顔の血管や神経に刺激を与え、脳の血流量が増え、脳が活性化されて記憶力が高まることも示唆されています。※2このように咀嚼による脳への影響に関する研究も、重視されているテーマのひとつです。

さらに近年、咀嚼は「ASMR」という新たな側面からも注目を集めています。

☆咀嚼の大切さや期待される作用についてはこちらの記事もご覧ください。
咀嚼で増える?マイオカインという幸せホルモンに似た物質の正体とは
子どもの咀嚼力は脳の発達や歯並びにも影響する?噛む力の大切さとは

咀嚼がもたらす意外な快感「ASMR」に世界中が注目!

咀嚼

このところ、世界中でASMRと呼ばれるコンテンツが人気です。ASMRとは、特定の音を聞いたときに感じる心地よさやゾクゾクするような感覚のことで、日本語では「自律感覚絶頂反応」と訳されます。このような音の刺激はリラックス感や幸福感をもたらすとされ、ASMRは動画配信サイトやSNSなどで多くのファンを獲得しています。※3,4

ASMRは感じ方に個人差があり、同じ音を聞いても快感を覚える人もいれば何も感じない人もいます。また、ASMRの感覚はゾクゾク、ゾワゾワ、ウズウズといった言葉で表されることが多いものの、こうした表現が「しっくりこない」と感じる人もいるでしょう。

ASMRに求めるものは人によってさまざまで、そのような幅広いニーズに応えようと、インターネット上には多種多様なASMRのコンテンツがあふれています。

ASMRを引き起こす代表的な音は、雨音や波の音、焚き火の音、小鳥のさえずりなどの自然音です。ほかにも氷を割る音やグラスに入れるときの音、人のささやき声、耳かきの音、本のページをめくる音、パソコンのキーボードを叩く音などASMRのバリエーションは多岐にわたり、なかでも人気を集めているのが「咀嚼音」なのです。

せんべい、グミ、芋けんぴなど。
咀嚼音ASMRで人気のお菓子は?

グミの咀嚼音

一口に「咀嚼音」といっても、ASMRの世界では無数のバリエーションがあります。

ASMRで人気の高い咀嚼音のひとつが、フライドチキンや唐揚げなど揚げ物の衣を噛み砕くガリガリ、ザクザクという音です。きゅうりや人参、パプリカなど生野菜をかじるポリッ、シャクッといった音も多くの人を引きつけています。

お菓子の咀嚼音は特にバラエティー豊かで、おせんべいやポテトチップスを噛むパリッ、ザクッという軽快な音、芋けんぴをかじるカリッと響く音、グミやフルーツゼリーの弾力が伝わってくるムニュッとした音など、素材や食感による違いを楽しむことができます。

WEB上には毎日のようにASMRのコンテンツが投稿され、視覚を超えた新たなエンターテイメントとして浸透しつつあります。自分だけのASMRを感じられる「お菓子を食べる音」を探してみるのも楽しいかもしれません。

☆おせんべいの咀嚼音についてはこちらの記事もご覧ください。
「咀嚼」はカラダにいい?お煎餅の咀嚼音「パリパリ」は世界共通か?

見直される咀嚼の影響。
いろいろなお菓子で咀嚼音ASMRを身近に楽しもう

せんべいの咀嚼音

ASMRの人気の高まりに伴って、咀嚼音を聞くことが人間に与える影響にも注目が集まっています。

近年、ASMRに関するさまざまな研究が進められいます。まだ明確な答えが出たわけではありませんが、すでに明らかになっている「咀嚼すること」のメリット以外に「咀嚼音を聞くこと」にも新たな可能性があるかもしれません。

動画配信サイトやSNSでは、幅広いジャンルの「食べる音」に手軽にアクセスできます。もちろん、実際に自分自身が食べることも咀嚼音を楽しむ方法のひとつです。口の中の音に集中力を傾けながら咀嚼すると、視覚や味覚に加えて聴覚からも満足感を得られるかもしれません。おやつの時間、お菓子を食べながら自分の咀嚼音をじっくり聞いてみて面白いのではないでしょうか。

さっくりと甘くてしょっぱい 雪の宿
ぱりん!とサクサク 食べやすいてのひらサイズ ぱりんこ
お米のクラッカーとアーモンドのパリッと、カリッとな組み合わせ チーズアーモンド
たっぷり黒大豆のバリボリ食感 丸大豆せんべい
粒々のテクスチャーと軽快なパリパリが楽しい 新潟仕込み

【参考文献】
※1 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム 〜健康づくりサポートネット〜
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-001
※2 独立行政法人 農畜産業振興機構
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2107_wadai1.html
※3 内田壱成、福塚咲良、矢野朋美、吉村耕一「ASMR が脳活動と気分状態に及ぼす影響」(科学・技術研究 第10巻2号 2021年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sst/10/2/10_179/_pdf
※4 仲谷正史、山田真司、近藤洋史(2023年)「脳がゾクゾクする不思議 ASMRを科学する」岩波書店

  • いしもとめぐみ

  • ライタープロフィール
    いしもとめぐみ
    管理栄養士。一般企業勤務を経て、栄養士資格を取得。病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験。現在は、栄養・健康分野の記事執筆を中心に活動中。日本ワインとおいしいものが大好き。